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ユニバーサルデザインと、そば打ちと、キタッラ [デザイン]



女将が病に倒れ、
それも簡単に治る質の病ではなく、
失行といって
手術後になんらかの障害が残る可能性がある、
そういう病気を治療している彼女と毎日生活をしていて、
それまで考えもしなかった現実を体験することがある。

ひとつが、先にもブログで書いた
「爪切り」
だった。

こんな当たり前のことが、
ある日を境にできなくなってしまう。

女将は根が力強いのでけっして弱音を吐かないが、
まったく辛くない、ということはないだろう。

差し出がましいことはしたくないし、
彼女の生き方を尊重したい。

でも、今のままではできないことが、
あるわずかな手助けでできるなら、
それはやってみよう。

そば打ちでもあるけれど、
デザイナーでもあるぼくは、
そう思って生きようと思った。




たとえばもし、
ぼくが片手を失ったら、
そばを打ち続けられるだろうか。


水回しは1kg程度なら片手でできる。

でも延しは。

さらに包丁仕事は。


ぼくは、だいぶ前からユニバーサルデザインには興味があり、
6年ほど前にそば打ちの道具を考えていた。

そして作ってみた。

オリジナルは、イタリアで昔から使われている

「キタッラ」(chitarra 英語でguitarです)

が元になっている。

03_chitarra.jpg

パスタを作る道具ですね。

四角いフレームに、鉄弦が張ってあるだけ。

非常に合理的にできている。

細かく張った鉄弦の上に、
延した生地をのせ、
その上から麺棒をギュッ、コロコロと転がすと、
細く切れたパスタが下に落ちる仕組みだ。

ただ、これをそのままそばに使うわけにはいかない。
弦と弦のあいだ(ピッチといいます)が広すぎるので
タッリァテッレ(きしめんとも)のような平打ちになってしまう。

生地が厚いと、うどんだ。

それをそば用にアレンジして作った。

キタッラ.jpg

弦がよく見えないでしょう、
こういう感じで張ってあります。

ピッチは、ぼくがいつも打っている、こんくらい。

キタッラ弦アップ.jpg


落ちきらない生地は、「くし」で落とす。

キタッラ櫛.jpg

「包丁仕事」に相当する部分を受け持つ道具だが、
おどろくほど早く一人前ができあがる。

一回に1〜2人前なので、
たくさん作るとなると何度も作業をくり返すが、
一回の作業があっという間なので苦にはならない。

1bit DACと16bitDACの違いとも。
(読み飛ばしてください。オーディオマニアのtweetです)


「ところてん式」のような高圧で麺を作るのと違い、
生地に負荷がかからないので、たいへん食感のよい蕎麦ができます。


これを作ったころはまだ輸入されていなかったようですが、
いまではネットでも購入できます。
ただし蕎麦ではなく、うどんくらいの太さになうようですが。

簡単で美味しい。


難点は?

「手打蕎麦」といえないことでしょうか。



あ、「延し」の部分を忘れました。
今度、実際に打っているところの写真をアップします。