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大久保醸造と、クレデンザ [黒森庵]


大久保醸造三代目のご主人、大久保さんとは、

蕎麦打の出張仕事をする前からのお付き合いなので、20ん年になる。



大久保さんの醤油は、

人柄が味に出ているとしか、いいようがない。



正直。

前向き。

好奇心のかたまり。

行動力。

その根底にある、太陽のような愛情。


どうしてもお会いしたくて、富山に行く途中に、

まだ一度も行っていない松本城を横目に見ながら、

迷彩状態の松本城.jpg



突然おじゃましたのだが、

笑顔でむかえてくださり、夕食までごちそうになってしまった。

楽座.jpg



ちょっとだけ「そば屋が、そば屋の宣伝を、しますとも 松本 楽座」


楽座のご主人は、元々はジャーナリストでいらした。

そば屋の取材をしていて、気がついたら自分がそば屋に、という、

「ミイラ取りがミイラに」パターンです。



終始笑顔のご主人の打つそば、風味豊かで、たいへん美味しかったです。

せいろと、かけそばをいただきました。

大久保さんとの話しで夢中で、

写真を撮れませんでしたので、次回また、ぺこり。

楽座 (らくざ)
電話:0263-46-9750
住所:長野県松本市浅間温泉1-6-6
営業時間:11:00~19:00
定休日:日曜日




さて。

ここから、大久保さんの世界が始まる。



「加東さんに、聴かせたいものがあるせ(松本弁でしょうね「あるんだ」という意味です)」


まぁ、まぁ、あがって、とご自宅にお呼ばれをした。



「これせ」(これだよ、という意味ですね)



クレデンザ.jpg


が〜ん。



クレデンザ。




正確にはヴィクトローラ・クレデンザという。



蓄音機の王様。

Victrola.jpg
Credenza.jpg
(登録商標、と日本語で書かれていますね。知らなかったなぁ)



ぼくは、過去に一回だけ、この音を聴いたことがある。


その時の感動を、いま、ここで?



「加東さん、島倉千代子なんて、どう?」



子どもの頃に慣れ親しんだ歌謡曲が好きだとおっしゃる。

ぼくが小学生の頃も、まだ歌謡曲全盛で、

島倉千代子さん、村田英雄さん、春日八郎さんなど、

ラジオからテレビから、よく聞こえてきていた。

当時の歌手の方々は、みな抜群に歌がうまい。

あ、ああ、あたりまえなんですが、

最近は、歌が下手でも「歌手」という方々がいるので・・・、つい一言。



で、島倉千代子さん。

島倉千代子.jpg

うわ、すごい。


歌、美味い(そば屋のパソコンです、ご了承ください)もとい、巧い。

こころに沁み入る。



なんという張りのある、充実した中音域。


もし、みなさんが初めてクレデンザを聴いたとすると、

現代のオーディオの音に慣れた耳には、

高域も、低域も物足りなく感じる方がおられるかもしれない。

しかし、驚くべきは人間の声の帯域の充実さだ。

ワインでよく使われる表現で

「ボディが厚い」

というのがあるが、まさにそれだ。

芯というか、骨格がこれでもかというくらいしっかりとしている。



音量もはんぱでない。

何十畳かの、デッドな(部屋の反響音がとても少ない、という意味です)和室で、朗々と鳴る。


この大音量、一切の電気的な増幅はない。

鉄針、竹針、サボテンの棘針などでレコードの溝から拾った、

小さな小さな振動を、

これまた小さな振動板に伝え(サウンドボックスといいますね)、

その小さな小さな音を、

ていねいにていねいに、ホーン効果で(ラッパ、メガホンのように)増幅させる。



これを完成させた当時の設計者、そして音作りをした技術者の凄まじさを、

いま、こうして全身で味わえる幸せ。



「加東さん、ワルター、聴く?」



聴かないでか。



Walter %22Emperor%22.jpg
Walter Giesekingピアノ、Bruno Walter指揮、「ダブル・ワルター」ですね。

そのピアノの存在感。

ウイーン・フィル・オーケストラのうねり。

ピアニシモでの、針のレコードを擦る音さえ気にならない説得力。

フォルテッシモでも、けっして破綻せず、

まさに演奏会にいるような感動。



これで充分、

などという言葉を使ったらバチがあたる。

なんという充実感。



奥さまがお茶を用意してくださる。

栗のきんとん、青梅の甘煮、メロン、

いろいろと出してくださったが、

音を聞くのに夢中で、唯一我にかえって撮った、

奥さまお手製の、漬け物。

長野といえば、お茶に漬け物。

漬け物.jpg
地のわらび、本物の紅生姜。

ああ、うっとり。



「ハイフェッツ、どう?」



うぉ、もぅ、どうにでもして、大久保さん(ラベルの写真をとる余裕なし)。



この、大久保さんの人間の奥の深さが、

そのまま味につながっている。




大久保さんの醤油たち.jpg

ほんとうにお醤油さんだという証拠写真です。


至福の時を、ありがとうございました。