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愛とは、リアルなこと。



女将が再再々(何度目か、もう覚えていられない)入院し、


正直なところ、これが最後の入院かと思った、


その女将。



どっこい、脅威の粘り腰で(元々お尻は大きめだが)、


今回の危機さえも乗り越えようとしている。



もうこれは、


一人の人間の生き様、


まさにヴァイタリティとはこういうもんだ、


ということをまざまざと見せつけられている状況だ。



悪性脳腫瘍で、

最終ステージで、

カードはすべて切ったといわれた女将。



最後のカードが効果的に働かず、

治療を終えて退院はしたものの、

すぐに体調を崩し、緊急入院。



最後のカードはすでに切られているわけだから、

それ以上のカードの切りようがなく、

ということは「その日を待つ」のかどうかという状況が続く中、

なんといったらよいのだろう、

それでも、

杏林大学病院スタッフの皆さんのご努力と、

女将の生きるエネルギーにターボがかかったというか、

すごいことが起きている。



何度も、女将は危機を迎え、

そしてそれを毎回乗り越えてきた。



しかし、心底から妻を愛しているぼくでも、

今回の緊急再入院はかなり厳しいと感じざるを得なかった。



入院当日の女将は、高熱、頭痛、身体硬直などで、

自分がどこにいるのかもわからず、

身体を動かすことも出来ず、

話しの内容も認知症ではないかと思われるほどだった。

ぼくの自動車にも乗れず救急車で杏林大学病院に運ばれて、

あと2日で、4週間になる。



つい先日のMRI検査の結果。


主治医からお話しがあった。


「女将さんのご病気が、やや改善されています」


「?!」


MRIの一ヶ月前と現在の写真を見せていただいた。

素人でもわかるくらいに、病巣に変化、

有り体にいえば、やや小さくなっているように見えた。


主治医は


「本来は2週間で半減期を迎えるはずの治療が、

女将さんの場合はその後で効いてきたのかもしれません、

お薬の効果が認められます」



今回の緊急入院、

女将がかなり難しい状況だったのは、

ぼくはよく理解していたつもりだった。

「その日」がきても動揺せずにいられるよう、

ちゃんと心にシミュレーションしていた。



べつにぼくは

人の幸せって

長ければ良いってもんじゃないとは思っている。



その人、その人が

振り返って

「幸せだったなぁ」

と思えたら、それはほんとうの幸せだ。



女将はどう?



じつは女将は、


「わたし、良くなりたい」


と、ぼくに話していた。



完治は難しいのは本人はとうに承知だけど、

それでも現状から少しでも快方に向かいたいと思っていた。



そういう心のベクトルがあるなら、

まだ生きることを味わいたいということじゃないか。



その言葉を聞いて、ぼくは意を決した。

どんなことがあっても、最後まで彼女の希望に添うようにしよう。



今では、身体が思うように動かないし、

ベッドの上で排泄をしなければならないし、

左の視野欠損があるし、

記憶をとどめられない事象もあるし、

ときどき辻褄の合わないことを話したりすることもあるけど、

そうじゃないときの女将は、

病気じゃないときの女将と、どこも変わっていない。



冗談を飛ばし、

60'sのロックの話しをし、

ファッションに敏感で、

食べることに貪欲で。



そういう彼女を見ていると、

ベッドの上でも幸せそうだと、ぼくらも思える。


言い方はへんだけど、

ぼくには彼女は今、

充分に燃焼して生きていると見える。


ベッドの上だけど、

毎日ぼくをはじめ、

子どもたちが入れ替わり立ち替わり病室に来ては、

自宅にいるのと同じ会話を交わし、

おいしいものを食べ、

スキンシップもできる。


しいて不満をあげれば、

ねこたちに触れないことくらいかなぁ。



QOL=クオリティ・オブ・ライフ。



最近の医療の素晴しいところは、ほんとうにこの部分が進んでいることだ。



悪性脳腫瘍ファイナルステージでも、

こういう状況でも、

こうやって愛を分かち合える。



どこの病院でも同じではないのかもしれない。

しかし、ここ杏林大学病院は、そういう素晴しい病院だと思う。




さて、

これからのぼくたちはどういう日々を過ごすのだろう。



それはだれにもわからない。



でも、いまわかること、


それは、今、ここで、


ぼくと女将は幸せだということ。



昼の面会時間はキスで始まり、

ぼくが彼女の口に食事を運び、

不自由な左の唇からこぼれる食べ物をナプキンで拭い、

ストローで好きな飲み物を飲む手伝いをし、

布団、枕の具合を確かめ、

場合によってはぼくが排泄を助け、

夕食がくれば、食事の味付けを手伝い、

食後のデザートを楽しみ、

面会時間の終了とともに、再度キスをし、

明日の再会を約束する。


こんな幸せな時間って、ない。


きっとぼくの家族も同じことを言うと思う。



愛とは、リアルなこと


ぼくたちは、今を生きている。


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