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特別な、アート。 [超夢]



どこかの体育館。



避難所に来ている。

どうやらぼくは被災していない。

ボランティアだ。



もちろんエアコンはない。


うだるような暑さの中

ほとんどの人たちは着の身着のまま

汗を拭くタオルさえないような状態で

ただただ救援隊と救援物資の到着を

無言のまま待っていた。



まだ、ほとんどなにもない。

水すらわずかな水を譲り合って飲むだけ。



だだっ広いはずの体育館は人で埋まり

でも

ほとんどみな無言ゆえに空気がとても重い。



すると一人の初老なの男性が

「これはいかん。
私たちでできることを、なにかしましょう」

と言って

どこかの教室から持ってきたクレパスで

壁に素敵な絵を描き始めた。



周囲の人たちはその人の手の動きに集中し出した。



突然その場の空気が軽く明るくなった。


小さな声ながらも

さわさわと会話が聞かれるようにもなってきた。



その初老の男性は

世界的に有名な芸術家だったのだ。



やがて周囲の眼は

彼の、天からの情報をチャネルするがごとく

滑らかな動きに釘付けになる。



すると「じゃ、わたしも」と

やはり初老の男性が

続いて外国の女性が壁に向かい

一人は絵を、一人は詩を描き始めた。



「おお、お久しぶりです、あなたも被災されて」

「そうなんです。

ちょうどこの町へ来たとたんの出来事でした

彼女と一緒に」

と女性を紹介する。


その男女も世界的なアーティストだった。



そうか、国際芸術祭が催されていたのか。

だから世界中からアーティストが集合してたのか。



それにしても彼らのライヴ・パフォーマンスが

目の前で見られるなんて

思っても見なかった。



ああ、どれもが素晴らしい。



聴衆の中には感動で啜り泣く声も聞こえてきた。



その時、市(町?)の職員が駆け足で

息を切らせて入ってきて大声で話し出した。



「いい大人が、なに壁にいたずら書きを!

すぐに消しなさい!」



誰かが通報したらしい。



その職員は言葉を続けて

「ここには子どももたくさんいるのはご存じでしょう。

その子たちが将来、あなたたちの真似したらどうするんですか!」

とまくしたてる。



するとその場の人たちは異口同音に

私たちは彼らの行為で癒されています

だから続けさせてください、と。



さらには彼らは世界的なアーティストだ

ということも告げるが

職員は

「これは公共の建物です

妄りに落書きをしてはいけないことくらいは

あなた方もご存じでしょう、ダメです」

の一点張り。



遅れてやってきた職員たちが

やはり息を切らせて上司に報告する。


「表の階段の所にも一つ

耳の長いウサギの大きな絵が描かれております!

それからホールの絨毯には

縄文柄のようなぐるぐる渦巻きのような模様が白黒で」



なにっ?

と顔をひきつらせながら

その上司とおぼしき男性は

「その、なんだ、えと、階段の所のぐるぐる渦巻きと

ホールの耳の長いウサギかなんだかの絵をすぐ消すように」

職員「あの、階段はウサギで、ホールがぐるぐる渦巻きで・・・」

上司「ばかもん、どっちだっていい、早く消してこい!」

職員たちは「はっ!」と敬礼をして立ち去った。



芸術家の描いた、特別な時の、特別なアート。



作品になればきっと

世界中からこの体育館に人々が訪れるだろうになぁ

と思った。



眼が覚めた。


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