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桃源な、音楽。 [超夢]


素晴らしい、ひとときだった。


そうとしか、いえない。


何処かの地方山間部に

「金山」という山がある。



岐阜に「金山巨石群」

というのがあるのは知っているが

そこではなく

長野か、東北か、北海道か。



そこへぼくは数人の友人たちと

自動車で向かっている。



ぼくだけは以前

一度だけ行ったことがあり

運転を買って出ている。



かなり近くまで来たとは感じているが

なにせ前回来た時からは

10年以上が経っているから

道がどうにも思い出せない。



走っていると

「Y字路」に見覚えがあった。



多分、ここを左に行けば目的地か。



ところがその道は舗装がガタガタで

以前はちゃんとした道路だったから

違うかなと「幹線道路」を走っていると

程なく街の中心部と思しきところへ着いた。



温泉があるらしく

ところどころに日帰り入浴の看板がある。



こじんまりとした町だ。



単線の鉄道駅があり

踏切の向こう側に

タクシー会社があった。


そこで聞いてみよう。



「すみません、金山へ行きたいんですが」


車を磨いていた運転手の人が

反応してくれた。


「あぁ、ここ、もう金山なんですが
 行きたいのは『お山』?それとも
 『神社金山』?」


「おやま」と言うのか。


そして「じんじゃかなやま」と

順序が逆なのか。



「あ、えと
 金山で音楽会があると聞いて・・・」


「あー、その金山ね、はいはい
 そんならね今来た道を戻って行くと
 Y字路があるからそこをね
 こっちから行くと右に曲がって
 道なりに行くとありますから」



やっぱり、あの道だった。


礼を言って車に戻ろうとすると

「あーでも
 けっこう時間かかるかもしれんよ
 今、全山交通規制かかってて
 制限速度10km/hだから」

という。


「え、なんでですか?」


「山が、揺れとんねん、ぷるぷる、てな」


「え?それって火山性とかですか?」


「それがようわからんのですわ
 ただ、でも
 こうやって立って目をつぶると
 ほら、ぷるぷるふるえとるでしょ」



たしかに。



ま、いい、行ってみよう

ここまで来たんだ、もうじきだろう。



ありがとうございました、と礼を言い

Y字路まで引き返し

ガタガタ道を10km/hで走り

なんとか着いたところは

たしかに「神社金山」で

音楽会はその敷地内に

新しく建てられた

音楽ホールで行われるようだ。



駐車場に車を停めて

降りた途端に

みんな一斉に伸びをしたので

顔を見合わせ、大笑い。


ノンストップの長旅だったものね。



鬱蒼と茂った山道の階段を

どんどん登って行くと

やがてどーんと開けた場所に出て

そこに純白の近代的な

でもどことなく

「パオ」とか「ゲル」を想像させる

円形のデザインの「白い家」があった。



透けて見えるほど薄い布に

包まれているようでもあり

通気に特化してるようでもあり

全天候対応だということは

この布がもっとも外側なのでわかるが

でもその素材が何なのか

まったくわからない。



高さは、そうだな

およそ30mくらいはあるだろうか

いや、もっとかな

いずれにしても、かなり大きい。



その中心には

火の見櫓のようなものが立ち

その櫓は

木で組まれたトラス構造だった。



ここ広場からでも

「金山町」すべてが見渡せるくらいの

パノラマだから

あの火の見櫓からだったら

どんなに気持ちよかろう。



そうそう

この演奏会の音楽家は

なんと、彫刻家五十嵐威暢さん。
(夢です)


五十嵐さんが演奏する

ということだけしか聞いておらず

どんな楽曲なのかも

どんな楽器を演奏するかもわからない。



開催日は明日で、今日は予備日。


宿へチェックインし

友人たちと飲み食べ、就寝。



翌朝・・・ていうか

未明に目が覚めたぼくは

散歩がてら

もう一度音楽ホールまで行ってみた。



すると、神社の方と思しき人が

ほうきで掃除をしていて

五十嵐さんとのご縁を話すと

「あ、それでしたら、どうぞ
 櫓をお登りください」



やった、登れる、パノラマだ



建物は不思議な構造で

白く塗られた木製のドアを開けて入ると

そこは通路しかなく

通路の両側は

すべて白い布で覆われ

天井は遮るものがないから

たぶん30mの高さだろう。



やがて目の前に

透明の筒のエレベーターが現れ

それに乗り込み、一気に櫓の頂上へ。



見張り台(見晴らし台?)自体は

12畳間を円にした位の面積かな

思ったほど広いわけではなかった。



周囲は透明のガラス(?)で囲まれ

視界を妨げるものは皆無

落ちる心配は無用。



では、ごゆっくり、と言われ

しばしパノラマを独り占め。



ああ、なんて素晴らしい眺めなんだ。



金山の町が全貌できるのはもちろんのこと

目を凝らすと遠くには海も見える。



その反対側は

緑濃い森に囲まれた金山が

昇り始めた太陽に照らされる。



空気も、あぁ、おいしい・・・



早起きしてよかったなぁ。



そういえば

見晴らし台の中心に

白いモノリスのようなものが

鎮座しているこれって

なんだろう?



好奇心は掻き立てられるが

でも、なんて気持ちいいんだ

今しばらく、この空気を味わおう。



仰向けになって空を眺めてみる

今まさに昇ってきた太陽に照らされた

青空に浮かぶ、金色の雲、雲、雲。



ここは、桃源郷か・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・



「加藤さん、加藤さん」



遠くでだれかがぼくを呼ぶ。



聞きなれた声、誰だろう。



目を開けてみると

目と鼻の先に

五十嵐さんのお顔が。



うわ、寝てた。



「加藤さん、気持ち良さそうでしたね。
 そろそろ演奏会始まるんですけど
 今、エレベーター使って
 降りていただけないんで
 こちらにそのまま居てくれますか?」



もちろんです、特等席中の特等席だ。



五十嵐さんはそう言うと

白いモノリスへ近づきボタンを押す。



すると

電動で周囲のカバー(?)が動き、収納され

出てきたものはなんと

パイプオルガンのコントロール設備だった。



え?



驚いていると

椅子の調整をし終わった五十嵐さん

ニコッと笑いながら


「そうなんです、この建物全部が
 パイプオルガンなんです。
 円形になっているのは
 音が全方位へ広がるように
 設計されているからなんです」



ちょうど司会者の音楽ホールの紹介

そして続いて

五十嵐威暢さんの紹介も終わり

盛大な拍手とともに

いよいよ、演奏が始まった。



さっと、真剣な表情へと変化した

五十嵐さんの手から流れたのは

「トッカータとフーガ」だった。






最初の一音が出ただけで

山が揺れた。



このオルガンの最重低音は

地響きなんてもんじゃない。



確かに大地が、反応した。



山が喜んでいるのか?



そして

なんて素晴らしい余韻

自然のエコーなんだ。



今まで

この楽曲が

パイプオルガンで

オープンエアで演奏されたことって

あるんだろうか。



ぼくは、ほとんど全身総毛立ち

いつしか、自然と涙がこみ上げていた。



すべての山河草木が

喜んでいるのを

感じ取った気がした。



気がつくと

見晴らし台(?)が微速で回転している。



演奏者が演奏中に

このパノラマを感じ取れる

その感覚をまた楽曲へ反映できる

ああ、なんて、素晴らしい配慮なんだ。



次の曲はエンディング

つまり2曲だけの演奏。


「バッハ 主よ、人の望みの喜びよ」






まさに、桃源郷だった。




注1:五十嵐威暢さんがパイプオルガンを演奏されるかどうかは未確認です

注2:あくまでもこの話は「超夢」です






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