女将からの、サインか、な?
明日で、女将が卒業して一ヶ月になる。
はやっ!
なにか朝起きると、今でも
「あ、病院行かなきゃ」
とか、
「着替え、洗っとくんだった」
とか思っては、
「あ、そっか、もうしなくていいんだ」
と、安堵してうっすらと寂しさが訪れたりしている。
そういとき、
「女将、どうしてるんだろうな」
と、思うんだ。
どうしてるんだろなぁ。
そんな感じで朝起きて、
ぼくはいつも放射線量の測定を開始する。
だいたい、一分計測×4回、
それから写真アップ用に、平均値とおぼしき数値が出たらその写真を撮る。
それをパソコンに取り込んで、
平均値を計算し、写真とコメントを添えてツイッターにアップする。
その日もその作業をしていたら、
次女が起きてきた。
「おはよう」
と、ぼく。
やや、間があって、
「おはよう」
と、次女。
あれ、なんか元気ないな、
と思い、モニターから目を外し、
振り返ってみると、なんか立ち止ったまま、動かない。
あれ、なんか、へんだ。
「どうしたの?」
また、間が空く。
「だいじょうぶ? 眠れた?」
また、間が空く。
やっと重い口を開いた。
「おはよう。あのね、わたし、お母さんの夢を見たの。
それが、ものすごくリアルだったの」
「へぇ、どんな?」
「お母さん、もう病気治っちゃってて、ちょっとだけ不自由そうなんだけど、
でもすっかり元気で、この居間で、でも、卒業式をしたあとの、
今の、この居間で、音楽を聴きながら楽しそうに身体を動かしてるの」
(by 次女)
「ふーん、いいね」
「おねえちゃん(長女)もいっしょにいるの」
「ふーん」
「お母さん、すごく元気で、病気前のあのはつらつとしたお母さんなの」
「そう! よかったじゃない」
「うん、そうなの。で、お父さんはなんか台所で料理してるの。
大きな音で音楽かけて」
「ふん、ふん」
「そしたら、おばあちゃんの庭のほうに小さな男の子がいるんだけど、
その子が、うちの中に入ってこようとするの」
「うん」
「でも、その子を見たとたん、『あ、これはまずい』って感じちゃったの」
「なにが?」
「あのね、その子は『あっちのひと』で、お母さんを迎えにきてるの」
「へぇ」
「で、わたし、お父さんを呼ぶんだけど、お父さん、料理に夢中なのか、聞こえないの」
「え、そうなの?」
「そうしたら、なんか、お母さんの力が抜けだしちゃって、
へなへな、ってなっちゃって、床にペタッて坐っちゃったの」
「へえ」
「そうなの、で、わたし、『お父さん! お父さん! お母さんがたいへんだよ!』って、
大声で呼ぶんだけど、『今これやってるから』って、
料理かなんかしていて、聞いてくれないの」
「そっかあ」
「で、お母さんに『急いで! なんかお父さんに伝えたいことって、ないの?』って、訊いたの。
そしたら、お父さんが来たんだけど、なんか、照れているらしくって、
もじもじしていて、なかなか話しださないの」
「ふーん」
「そしたら、お父さんも照れてるらしくって、
なんか、お互い中学生みたいに、背中をくっつけ合ってゆらゆらしてんの」
(by 次女)
「へぇ」
「それがなんかね、すごくかわいくて、いいの」
「そおかぁ」
「そしたら、お母さん、やっと言ったの・・・」
次の言葉を聞こうと、耳を澄ましていると、
長い間が空き、声を絞り出すように、
「『私はしあわせだから、晴之は晴之なりにしあわせになってね』って・・・」(晴之=ぼく)
(by 次女)
それからは次女は鼻声だった。
「それを言うとね、お母さんは、その子どもとね、
もうその時は子どもじゃなくて、大人なんだけど、その人と、行っちゃうの」
そういう話しだった。
あっちの世界には、あっちの世界の「きまり」でもあるのかな。
それにしても、不思議で、
でも、うれしい話しだった。
女将は幸せでいる。
そしてぼくを慮ってくれる、女将らしい言葉だった。
夢?
それで、いい。
ぼくは、それを信じるよ。
しあわせで、よかった、
女将。
夜になって
辺りは暗くなり
月明かりだけになっちゃっても
こわくなんかない
ぜんぜん、こわくなんかないよ
きみさえいてくれれば、ね
ね 女将
そばにいてくれるかな
いてほしいなぁ
どうか、いっしょにいてほしい
もし見上げている空が
崩れ落ちてきちゃったとしても
山が崩れて海になっちゃっても
泣かないよ
ぜったい泣くもんか
きみがそばにいてくれさえすれば、だいじょうぶ
そばにいてほしい
あぁ、そばにいてほしい
そばにいてほしいんだ
もしきみが困っていたら
ぼくのそばにいて
ぼくのそばにいてほしいんだ
(ぼくはいつでもきみを助けられるから、ね)
Stand By Me
2011-09-23 18:30
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